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珠玉の島酒を語る ~ 至宝の酒・泡盛 ぬみやびら かたやびら ~

お酒を愛する人泡盛

「ぬみやびら、かたやびら」はウチナーグチ(沖縄言葉)で、「飲みましょう、語りましょう」の意。泡盛を嗜む方々に、泡盛の魅力とおすすめの泡盛3選を語っていただくシリーズです。

<第1夜> 比嘉 智明(Tomoaki Higa)|『珠玉の島酒』主宰、経営コンサルタント、ITコンサルタント

1969年、沖縄県那覇市生まれ。泡盛はゆったりと時間を持てるときにじっくりと味わって飲むことを好み、酒器にもこだわりを持つ。泡盛のおつまみは、もっぱらナッツ。趣味は仕事と映画鑑賞。

泡盛との出会い

那覇市首里出身の僕にとって、泡盛は子どもの頃から身近な存在でした。というのも当時、家から小学校に行くまでの道すがら、泡盛の酒造所が4ヶ所もありましたから。識名酒造、瑞泉酒造、移転された瑞穂酒造と咲元酒造の4酒造所です。母は瑞泉、咲元でパートをしていましたし、学校には酒造所の息子がいてケンカ友だちでした(笑)。思えば泡盛の香りに包まれて育ったんですよね。

初めて泡盛を口にしたのは沖縄での学生時代です。みんなでワイワイと「残白(残波ホワイト)」「残黒(残波ブラック)」などを飲んでいましたが、大学卒業後は東京で過ごしましたのでその間、泡盛から少し離れていました。

40代になって沖縄に戻り、縁あって酒造所のお手伝いをさせていただく仕事に恵まれました。仕事柄、もっと泡盛のことを深く知らなければと思い至り、泡盛の歴史や作り方などを勉強しつつ、改めて本格的に泡盛を飲みはじめました。

泡盛に向き合って飲んでいくうち、作り方や原料によって泡盛は多種多様な香り・味わいが表現できて面白い、こんなお酒を知っていたら愉快で人生をより豊かにするな、と泡盛の魅力に気付かされました。

いまでは興味深いと思える珍しい泡盛を厳選の上で入手し、基本ロックで、落ち着いて味わいながら大事に飲んでいます。

泡盛の魅力

僕は泡盛もウイスキーと同じくらい魅力を感じています。

泡盛は限られた工程のなかでいろいろと工夫が施されています。例えば「尚(しょう)」は、通常1回蒸留のところを3回蒸留で作られていますし、原料となる水や酵母を変えることでガラッと風味が変わることも面白いです。

以前、訪れた伊平屋島(いへやじま)でわかったことですが、伊平屋島の泡盛は伊平屋島の湧き水の味がするのです。島の湧き水を使って“ここでしか作れない泡盛が誕生するのだ”ということを身をもって知ることができましたね。

また、泡盛には文化があり、ストーリーを有している点も魅力です。例えば、日本最西端の与那国島(よなぐにじま)の「花酒」。花酒は、泡盛とまったく同じ原材料と製造法ですが与那国島だけに製造が認められている独特の蒸留酒で、アルコール度数は60度もあります。その花酒は洗骨(※)に用いられてきたという歴史文化など、泡盛には知識欲を掻き立てられるストーリーが秘められているのも魅力です。

※洗骨(せんこつ) … 土葬や風葬など、火葬されていない死者の遺骨を数年後に洗い清め、再び埋葬する風習。

おすすめの泡盛 <入門編>

崎山酒造廠「赤の松藤」(アルコール度数:30度)

入門編としておすすめしたいのは、沖縄本島・金武町(きんちょう)にある崎山酒造廠の泡盛「赤の松藤」です。泡盛然としていないラベルがカッコよく、どこででも手に入り、価格も手頃。黒糖酵母を用いており、甘くスーッと入っていきますので、泡盛が苦手な方も美味しく頂けると思います。

おすすめ泡盛 <中級編>

咲元酒造「蔵内限定 秘蔵古酒 咲元 四十度 2005年12月貯蔵」(度数:40度) 

https://www.sakimoto-awamori.com/

かつて通学路にあった小さな趣のある酒蔵、咲元酒造の古酒です。移転されましたが、僕の地元の泡盛です。母がパートで働いていた酒造所でしたので、僕を養ってくれた泡盛ですね(笑)。

こちらは、“ザ・泡盛”と言えるような独特の味わいで、玄人好みの泡盛。

限定販売なので現在は入手困難かと思いますが、那覇市泉崎の「Bar Tasting Club」(TEL:070-6599-5691)で味わえるようです。

おすすめ泡盛 <上級編>

沖縄県内12酒造所でつくられている「尚(しょう)」(アルコール度数:40%)

http://www.awamori-sho.jp/

沖縄県内12の酒造所(石川酒造場、神村酒造、金武酒造、崎山酒造廠、瑞泉酒造、請福酒造、まさひろ酒造、瑞穂酒造、ヘリオス酒造、八重泉酒造、やんばる酒造、米泡盛造)それぞれの蔵で作られる「尚」シリーズ。

日本最古の蒸留酒といわれる泡盛は、伝統的に1回蒸溜製法で作られています。「尚」は、蒸留回数を1回から3回へと増やすことで、雑味が省かれ狙った香りと味を採ることができ旨味が凝縮されています。そのため、各酒造所の違い、味わいや特徴がよくわかります。

初めて「尚」を口にしたときは、その飛び抜けた美味しさに驚きました。僕にとって「尚」は、良いウイスキーを飲むときに近い感覚。当たり前のように“あるから飲む”ではなく、「よーし飲もう!」と意識して飲むお酒です。

あなたにとって泡盛とは

お酒全般に言えることだとは思いますが、泡盛は、人生を豊かにするものですね。

【取材協力】Bar Tasting Club/TEL:070-6599-5691

しーぶん(オマケ)

「僕にとって泡盛はウイスキーを飲むときの感覚で、カッコつける時に飲むんです」と語る比嘉氏は、「たぶん初めて人に話しますが、僕にとってのカッコイイ大人、カッコイイ男は、開高健なんです。座右の銘は“悠々として急げ”。彼と同じ生き方はできないし、したくはないけれど、彼の生き様に揺さぶられ、憧れのような感情を抱いています」とカッコイイ大人、カッコイイ男談義を展開。「映画が大好きで、実は若い頃は映画監督になりたかったんです。将来の夢は、開高健題材の映画を撮る! 監督オレ、主演オレで(笑)」とユーモアを交えつつ大いに飲み語られました。まさに「ぬみやびら、かたやびら」。

琉球の歴史と文化を有する泡盛は、大人の会話を心地よく盛り上げてくれるのも魅力なのです。

Photographs & Text by 安積 美加(Mika Asaka)