今夜は島酒紀文① ~与那国島 どなん 国泉泡盛合名会社編~
泡盛酒造所
「今夜は島酒紀文」は筆者・島酒コンシェルジュの儀部頼人が、きままに泡盛の酒造所をめぐり、その酒造所の泡盛をテイスティングしていくシリーズです。
一路どなんの島へ
ボンバルディア・DHC-8-400・・・ 言わずと知れた名機である。2000馬力のターボエンジンを2基搭載し、離陸時の加速Gはジェット旅客機を超える頼もしさである。
筆者は日本最西端の蒸留所を訪ねるべくこのコミューター機に乗り込んだのだが、小さな機体とあいにくの悪天候への不安は、まだ行ったことのない未知なる蒸留所への期待にかき消され、晴れ晴れとした気持ちでフライトを楽しむことができた。

両方の翼の下からランディング・ギアが下りてくる、といよいよ与那国空港への着陸である。
小さなタイヤが水しぶきを上げ与那国の大地へと接地する。ワクワクが止まらない・・・
空港のロビーに着くと、見るからに気のよさそうな男性が筆者の名前の書かれたプラカードを持って微笑んでいる。レンタカー屋さんである。ひとしきりの手続きの後、この旅での愛馬となる白亜の軽自動車のハンドルを握った。「よし、君の名前はホワイトホースだ!」筆者は無論酒好きである。
さっそく第一の目的地である高度数泡盛の代名詞である「どなん」が造られる国泉泡盛合名会社へと愛馬を走らせる。 与那国島は地図アプリで事前に下調べをしていたのだが、ここまで起伏に富んだ地形とは想像していなかった。見上げる断崖絶壁。その圧倒的ジオグラフィックを堪能しながらナビの指示で畑道を進んでいく。すると平坦な道が急に体育会系の部活動のシゴキに使われそうな急坂に差し掛かる。「がんばれ、ホワイトホース!」そう呟きながらアクセルを踏み込み、坂を駆け上がると、やがて左手の方に期待するソレとは少し違う、近代的な建屋が見えてきた。国泉泡盛合名会社である。
工場地帯でよく見かけるスチール製の外壁。正直、筆者は赤瓦を乗せ、経年変化の衣を纏い、割れた甕でおめかしした、「正統派田舎の酒蔵」を想像していたのだが、、、
早速、代表の大嵩氏に酒蔵の見学をお願いすると二つ返事で快諾頂いた。【※7】ドアを入るとまずは自慢の泡盛を販売する売店がある。売店といってもワンルーム程の小さなものだ。そこには「花酒の代名詞」どなんが鎮座していたのだ。ひな壇にきらびやかに並べられたボトル。その中でもひときわ目を引くのが「クバ巻き」と言われる、与那国島の伝統的な技法で巻かれたスペシャルボトルである。クバとはビロウヤシの事で、島に多く自生し、古より島の人々の暮らしと共にあった。 工芸品に使うクバは各自が大切に栽培しているとのこと。



「クバ巻きの泡盛=高度数泡盛」は日本人なら誰しもが連想するほどに有名である。
だが、その知名度が仇となる場合がある。そう、「異常に強い酒」「私にはムリムリ」「キワモノでしょう?」この様な残念な先入観である。
そもそも、なぜ与那国島だけ60度などという「ケタ違い」な泡盛が存在するのか。それは古より続く島の風習、「洗骨葬」が現在も脈々と受け継がれているからだ。洗骨葬とは、人が亡くなった際に、火葬場のないこの島ではご遺体をそのまま墓に埋葬する。そしてご遺体と共に入れられるのが60度の花酒2本である。そして7年後にお骨と花酒を墓から取り出し、お骨を花酒で清めると同時に高度数のアルコールの力を借りて荼毘に伏すのである。
そして残った花酒は集まった人々に振舞われるのである。中には薬として患部に塗る様な事もあるそうだ。
工場内に入ると、とても清潔感があり広々としている。スタッフがテーブルに並べられた泡盛のビンを封印する作業をしていた。蓋にスポッと熱々に熱せられたコテの様なものでビニールの蓋を縮めて封印するのだ。



整然と並べられた貯蔵タンクを過ぎると、酒造所の心臓部、「蒸留器」現れる。形は多くの酒造所で採用している「横置き型」である。ネックは細形で軽い酒質を目指している様である。本当に惚れ惚れするほどキレイな状態に保たれている。まるで愛車は磨くように酒造所内を管理しているのであろう。本当に頭が下がる。



それでは「どなん」をテイスティングしてみようと思う。今回テイスティングする酒は「どなん43度」である。あえて花酒ではなく30度を選んだのは、花酒は蒸留開始直後のハナ(初め)のタレ(垂れ)であるため、どなんのもろみの味をすべて反映していないからだ。この酒蔵の味を知りたいのであれば、祭事用の60度ではなく、蒸留の後の段階の酒まで加わったスタンダードな30度が良いと考えたからだ。
新酒のテイスティンング
―まず香ばしい麦と青草の香り、その中におこげ様のニュアンス。開いたら綿菓子様の香りが現れる。口に含んで甘さと塩っぽさが交互にやってくる。甘い。R2.04.1の口年月日の新酒とは思えない口当たりのやわらかさである。この「どなん30度」はぜひともこの記事をご覧の方に飲んでもらいたい。「どなん」に対する固定観念が覆されるだろう。実際、筆者がそうである。もう一度言う。「どなん=花酒」のイメージは、一度東崎灯台から投げ捨てたほうが良い。
それではこの酒が熟成するとどうなるのか。筆者の手元には幸いなことに、国泉酒造が以前住所を構えていた「158番地」のボトルと「144番地」のボトルが筆者の手元にあるのでテイスティングしてみたいと思う。
どなん(43度) 旧酒造所所在地:与那国158番地での製造
―まず初めに麦藁のようなグラッシーで香ばしい香りが立ち上がってくる。奥のほうに塩気、雨が降った直後の地面の香りを感じさせ、極上のジンの様な感覚を覚える。次第に綿菓子に似た甘い香りが支配してくる。口に含むと水あめ、綿菓子のような甘みが押し寄せてくる。舌の上に広げるとおこげの様な香ばしい味わいが広がり、飲み手の高揚感を掻き立てる。フィニッシュはいやらしい余韻など全く無く、すぅーっと引いていく。ただ綿菓子の甘さだけが心地よく残る-
最高の古酒である。まさに熟成の円熟期。この様な酒に巡り合えて筆者は幸せ者である。

どなん(43度) 現酒造所所在地:与那国144番地での製造
― まずはお醤油のニュアンス。わかりやすく表現すれば「ぽたぽた焼き」である。奥のほうにかすかな緑の香り、与那国島の平原を思いださせる。口に含むと力強いアルコールの刺激、まだまだパワフルである。しかしながら味わいはやはり綿菓子の甘さが際立つ。「ぽたぽた焼き」のニュアンスと相まってまさに砂糖醤油である。余韻は長い。口の中にブドウ糖のキャンディーを放り込んだ様な甘さが30秒ほど続く。甘さが消える頃、自然に利き腕がグラスに伸びていた ―
どなんのラベルに書かれた「のみよい御酒」の一文。一見「飲みやすい」と捉えられがちで、「こんな度数が高いのに何を言っているンだ」と考える方も居るだろう。しかしながらそれは思い違いをしていると筆者は指摘したい。 これは「マイルドで飲みやすい」という意味ではなく、「酒を飲むというのであれば、これ程飲む価値のある酒は他にないだろう」という思いが込められているのだ。
ということで、次の紀文をご期待ください。
Photographs & Text by 儀部 頼人(Yorito Gibu)
続く