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奇跡的に見つけ出した酵母から造られる神谷酒造所の泡盛

泡盛酒造所

現在、沖縄には、泡盛の酒造所が離島を含み46ヵ所あります。

銘柄ごとに多種多様な味わいや香りがうまれる理由は、原料や製造工程での工夫などさまざま。なかでも、今回は酵母に着目し、代表銘柄・南光を製造する本島南部・八重瀬町にある “ 神谷酒造所 ” へ行ってきました。ある花の酵母を使った泡盛造りをしています。

のどかな風景に囲まれる「神谷酒造所」

神谷酒造 周辺

神谷酒造所は、戦後1949年創業。三代目の工場長である神谷雅樹さんの祖父・俊彦さんが東風平で立ち上げました。当時は、役場に勤めていた俊彦さん。「地元のお酒を役場主導で作ろう」と酒造りをスタートさせましたが、後に役場主導から切り替わり独立。しかし、50、60年代は、連続式蒸留の甲類焼酎が流行っていて泡盛はあまり飲まれていない時代でした。たくさんあった酒造所も減っていくなか、それでも、神谷酒造所は生き残ります。

そして、祖父・俊彦さんから父・正彦さん、現在工場長の雅樹さんへと受け継ぎ、いまは、八重瀬町世名城で泡盛の製造を行っています。南方には八重瀬岳、周辺にはさとうきび畑が広がり、ゆったりとした時間が流れる場所に位置しています。

平坦ではなかった神谷酒造所の歩み

神谷酒造 看板

雅樹さんが継いで間もなく、父の正彦さんが病に倒れます。泡盛の製造方法を直接教えてもらうことが難しくなりましたが、そこで諦めることなく、上原酒造と宮里酒造所で一から勉強し、造り方を学びました。

実は、雅樹さん自身が高校生のときから、『神谷酒造所の酒はおいしいんだけど、あんまり酔わないね』という声を耳にしていたのだとか。自らが工場に立ち泡盛づくりをスタートさせたとき、「おいしくて、酔いも感じる酒造りを目指した。どんな酒ができるのか?自分が作るからには、おいしい酒を作ってやる!って根拠はないけど、酒を作る楽しさが勝っていた」と当時を振り返ります。

そこから、試行錯誤を重ね、ついには蒸留機まで変えて、現在の南光に辿りつきました。

そして、それまでの経験を活かし、新たに神谷酒造所のラインタップに加わったのが、ハイビスカスやマリーゴールドの酵母を使った、はなはなシリーズ泡盛でした。

酵母について

一般的に、泡盛の酵母には泡盛101号が使われます。酵母と言っても種類はさまざまで、違いがあるからこそ、酒造所によって味の違いができます。そして、酵母を変えることによって、オリジナリティを追求した泡盛を作ることができます。

ところで、そもそも酵母とは何なのか?酵母とは、糖をアルコールと炭酸ガスに分解する微生物のことで、野菜や果物、植物など、あらゆるものに生息しています。そして、香り成分を生み出すのも酵母の役目です。

泡盛を造る際、原料となるお米のでんぷんを分解するために必要なのが酵母で、この酵母がアルコールを作りだします。酵母によって取れるアルコール量も違い、香りの成分も変わる。アルコールに適した酵母は何万分の一の確立でしか見つけられないので、一つの酵母を見つけられるのは奇跡とも言えます。

ハイビスカスとマリーンゴールドの酵母を使用

ハイビスカス酵母

神谷酒造所では、酵母が生神谷酒造所では、酵母が生み出すフルーティーな吟醸香を持つ泡盛を作りたい、と思ったのがきっかで、泡盛101号以外の酵母で泡盛造りをすることに。ハイビスカスの酵母を使った『はなはな ハイビスカス酵母仕込み』と、八重瀬町の町花であるマリーゴールドを使った『はなはな マリーゴールド酵母』が誕生しました。

『はなはな ハイビスカス酵母仕込み』

神谷酒造所では、酵母が生み出すフルーティーな吟醸香を持つ泡盛を作りたい、と思ったのがきっかで、泡盛101号以外の酵母で泡盛造りをすることに。ハイビスカスの酵母を使った『はなはな ハイビスカス酵母仕込み』と、八重瀬町の町花であるマリーゴールドを使った『はなはな マリーゴールド酵母』が誕生しました。

『はなはな マリーゴールド酵母』

八重瀬町で栽培されるピーマンやマンゴーなど、色鮮やかな野菜を活用して地域活性化などを図ることを目的とした『カラベジプロジェクト』の一つとして、八重瀬町の町花であるマリーゴールドを使った泡盛を造ることに。マリーゴールドの酵母が作れるか挑戦しましたが、マリーゴールドの体制は弱く、使える酵母も何万個に一個と貴重であることが判明します。それでも、花びらから、なんとか酵母を見つけ出し、ハーブのような上品な香りを醸し出す花酵母泡盛を造ることに成功。瓶のラベルは、カラベジプロジェクト共通のデザインが使われており、地域に密着した泡盛であることも分かります。

泡盛の楽しみ方

泡盛の楽しみ方

泡盛とひとことで行っても、製造方法、酵母、泡盛の種類(原酒・新酒・古酒)、味わい、香りとさまざまです。飲みやすさで選ぶのか、味わいで選ぶのか、香りで選ぶのか……。個人によって、お好みの楽しみ方ができますが、一つ踏み込んで泡盛により近づくと、また楽しみ方の幅が広がります。

雅樹さんは、「なるべく自分たちにしか作れないお酒を作りたい。将来的には、沖縄県産米を原料にした泡盛を作ってみたい。理想的なお酒をどのようにすれば作れるのかを追求し続けたい」と話しています。神谷酒造所のストーリーに触れながら、一口、二口……と味わうと、さらに泡盛の魅力に取り憑かれていくはずです。ぜひ、神谷酒造所の泡盛をお楽しみください。

神谷酒造所の泡盛のラインナップ

古酒はなはな

①はなはな ハイビスカス酵母仕込み

27度/ハイビスカス/減圧
>>>>>低温発酵によるフルーティーな味わいで、バナナのような甘い香り

はなはな ハイビスカス酵母仕込み

②古酒はなはな

25度/泡盛101号/常圧
>>>>>低温発酵モロミによる甘い味わいで、キャラメルのような甘い香り

はなはな マリーゴールド酵母

③はなはな マリーゴールド酵母

30度/マリーゴールド/常圧
>>>>>穏やかでコクのある味わいで、上品な香り

南光

④南光

30度/泡盛101号/常圧
>>>>>間接加熱式蒸留機を使用したしっかりとした味わい。泡盛本来の旨みや華やかな香り

熟成古酒 南光

⑤熟成古酒 南光

40度/泡盛101号/常圧
>>>>>すっきりとした力強い味わいで、フルーティーで華やかな香り

10年古酒 琉球泡盛K

⑥10年古酒 琉球泡盛K

43度/泡盛101号/常圧
>>>>>南光の10年古酒。10年の歳月をかけて熟成された深く優しい味わい、熟したパインのような甘い香り

南光 原酒

⑦南光 原酒

50度/泡盛101号/常圧
>>>>>蒸留のあと、一切水を加えていないため泡盛本来の旨みや甘みが残る。重厚感のある味わいで、キャラメルのような深い甘さが香る

<酒造所情報>
神谷酒造所
住所:沖縄県八重瀬町字世名城510-3
電話:098-998-2108
HP:https://awamori.site/

Photo&text:三木愛海