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1950年創業「やんばる酒造」の泡盛が地元で愛され続ける理由

泡盛酒造所

 “長寿の里”として知られている大宜味村(おおぎみそん)にある「やんばる酒造(旧田嘉里酒造所)」は沖縄県本島最北端にある泡盛酒造所です。

地域の人たちの出資により創業

やんばる酒造 外観

この場所は、もともと精米所として使われていましたが、地域の人たちの出資によって1950年(昭和25年)酒造所として創業しました。当時の沖縄はアメリカの統治下にあったため泡盛造りも厳しく管理されていたため、酒造りができる者が限られていた時代。そんな状況下にありましたが、やんばる酒造で酒造りが始まりました。

専務の池原文子さんは「集落の方たちが出資したものなので、酒造所自体が“集落のもの”という感覚かもしれません。それが他の酒造所と違う点だと思います。生活に必要なものが買えるだけでなく、地域の人たちのコミュニケーションの場として大切にされている“共同売店”のような存在でしょうか」と話します。

生産量の7〜8割が地元で消費

創業した頃はちょうどウイスキーが全盛の時代。近隣の泡盛酒造所が廃業に追い込まれる中、やんばる酒造は地元を大事にし、地元に愛される経営を貫き通しました。その甲斐もあって、こちらの泡盛は昔も今も生産量のおよそ7〜8割は地元(東村・国頭村・大宜味村)で消費されています。

やんばる酒造の泡盛はおいしい天然水から

泡盛造りに欠かせないのが「水」ですが、やんばる酒造では、酒造所から2キロほど山手に登ったところに昔から木を切ってはいけない禁止区域があり、そこは現在集落専用の取水地となっています。現在はそこからやんばるの天然水を引き込み、使用しています。この水は、ミネラルをほどよく含んだ中硬水。黒麹菌との相性が良く、風味豊かで柔らかい甘さをもたらしてくれるのだそうです。「泡盛の基本的な製造方法はどの酒造所も共通ですが、まろやかな甘みとやさしい口当たりは、やんばるの天然水で仕込んでいるからこそ出せる味わいです」と池原さん。

酒造りにおいて大切にしている3つのこと

やんばる酒造では、その他にも酒造りにおいて大切にしていることが3つあると言います。

一つ目は「やんばるの島酒であり続けること」。

「私たちは、昔も今も地域の皆さまに支えられてきた“地域密着型の酒造所”です。これからも地元に根差した島酒でいることを忘れません。」

二つ目は「誰かと飲むお酒」であること。

「創業当初から村の人が大切にしてきたものに、人と人の繋がりがあります。やんばる酒造の島酒は、昔から「誰かと飲むお酒」=「もてなしの酒」でした。やんばるの人たちにとっては「家族」のように、訪れる人たちにとっては「遠い親戚」のように。地域の外と中をおもてなしの心で繋げる役割を担っていきたいです」

三つ目は「笑顔を生み出すこと」。

「社員、お客様、私たちを囲むすべての人々の笑顔の中心にやんばる酒造がある毎日を目指しています。」

やんばる酒造おすすめの泡盛は?

そんなやんばる酒造の泡盛ラインナップは約30種類。その中から3種類を紹介させていただきますね。

まるた20度

まずは消費率80%の地元で一番飲まれている1本「まるた 20度」から。こちらは、水のおいしさを生かすために、蒸留後1年以上の熟成期間を設けた泡盛。泡盛とやんばるの天然水がしっかり馴染んでまろやかな飲み口になった時、はじめて出荷することができる泡盛です。口当たりを優しくマイルドに仕上げたまるた20度は、合わせる料理を選びません。ちなみに、地元の人たちは8:2(酒:水)で割って飲むことが多いそうです。

尚

「これから泡盛に挑戦してみたいけれど、どれを選べば良いか分からない」という初心者の方におすすめしたいのは「尚 SHO-YANBARU-」。「SHO」は泡盛メーカー12社が連携し、同じ銘柄のお酒を同じ製法で作るというプロジェクトで生まれた泡盛。泡盛は通常1回蒸留をしますが、SHOは「3回蒸留」という新しい製法で造られます。蒸留を3回することで、泡盛特有のクセが除かれ、柔らかくクリアな飲み口に仕上がるのだそうです。マンゴーやバナナを連想させる南国らしい香りがありながら、後味はスッキリ。アルコール度数40%なのでカクテルにして様々な楽しみ方をしてみるのも面白いかもしれません。

泡盛を飲み慣れているツウにおすすめしたいのは、甕から直接計り売りを行っている貴重な古酒。メープルシロップを思わせる甘い香りのする「蔵元限定44度 20年古酒」が最も熟成年数の長いものだそう。やんばる酒造に来ないと手に入れることの出来ないお酒ですが、1合(2,000円)から購入することができます。

お土産付きの酒造所見学

やんばる酒造では、酒造所見学(1人1,000円)もでき、泡盛ファンや観光客から喜ばれています。酒造所見学では、こだわりや泡盛を造る工程の説明を聞きながら30分ほどかけてまわります。見学後には、泡盛の試飲やお土産のサービスも。

“やんばるもあい”とは???

そして最近やんばる酒造所が力を入れているのが「やんばるもあい」。もあい(模合)は昔から沖縄にある集まりのことで、もともとは“助け合う”ための仕組みでした。月に1度“もあい仲間”と食事をしながら積み立てをし、まとまったお金はその時必要な人が受け取るというシステム。そんなもあいからヒントを得たという「やんばるもあい」は「『沖縄が好き』『泡盛が好き』『やんばるが好き』な皆様と繋がりたい」という思いから生まれた定期便サービスです。

プランは「おたよりもあい 1,000円/年会費」「ともだちもあい 1,980円/月」「つながるもあい 3,980円/月」の3パターン。

「ファンクラブのようなコミュニティーです。私たちはやんばるの酒として生まれ、やんばるの酒として育ちました。地域に還元するという意味でも、これからはお酒以外の“やんばるのいいモノ”を発信していきたいと思っていました。お届けするのは、お酒、この地域の旬のもの(マンゴー、シークヮーサー、タンカン、ドラゴンフルーツなど)がメインで、ふるさと納税の民間バージョンのようなイメージです。そしてコロナでなかなか叶いませんが、年に1、2回はもあい仲間で集まって、お酒を一緒に飲みたいと思っています」

現在はメンバーが80名ぐらい集まっているそうですが、60名は県外の方だそう。「メンバー(お客様)にも喜んでいただけて、農家さんにも還元できて。皆さんの仲を取り持つのは私たち酒造所としての役目だと思っています。お酒はコミュニケーションツールですよね。その力を最大に発揮できるようなコミュニティーを作りたい!というというところから始まりました。」と池原さん。

今までは「地域外に売るということなど念頭になかった」そうですが、時代に合わせて「古き良きものを保ちながら、進化していくためにはどうすれば良いか」と考え始めたといいます。

やんばるをオンラインで楽しむ

最近ではオンラインショップ「やんばるオンライン共同店」も開設しました。こちらは、やんばるでモノづくりをしている人たちが集まり、自由に商品を並べて販売できる空間。沖縄の人たちが昔から大事にしている「ゆいまーる(助け合い)」を形にし、大変な時期もみんなで乗り越えられるような仕組みを作ったのです。

そしてやんばる酒造では、これから“仕次ぎ”を考えている方たちのためのアドバイスや、甕のメンテナンスも行っています。

「甕の状態って見ても分からないと思うんです。『中身は入っているけど、飲めるのだろうか?』『中身の入っている甕に他の泡盛を継ぎ足しても良いのか分からない』など、何でも相談してください。甕は持ち込んでいただく必要がありますが、お預かりしてしっかり見させていただきます。昔の甕は蓋の部分が木で劣化しやすかったりするので、蓋をシリコン製に変えるだけでもだいぶ違います。もっと酒造所を頼ってください」

酒造所の役割は酒造りだけではなく、地域のコミュニティーや人と人、人とやんばるを繋ぐ

ハブ役にもなっているのですね。私は今回やんばる酒造所にお邪魔させていただき、これからの沖縄を盛り上げていくのに必要不可欠な存在かもしれない…と感じました。

やんばる酒造株式会社

住所:沖縄県国頭郡大宜味村田嘉里417
電話:0980-44-3297
営業時間:9:00〜17:00
やんばるオンライン共同店(https://takazato-maruta.com

Photo&text:舘幸子