泡盛と酒器:豊富な知識と技術を持って、琉球ガラスの世界を極める若手作家 うみのおと
お酒と文化
沖縄本島北部・本部町の緑あふれる場所にある、『伊豆味ガラス工房 うみのおと』。風が吹くと、木々の葉がざわめく音が聞こえるなか、琉球ガラスを作るのは、嶺井海音さんです。中学生のとき、職場体験で琉球ガラス工房に行ったのをきっかけに、ガラスの魅力に惹かれることに。沖縄県内の琉球ガラス工房で見習いとして技術を学んだだけではなく、県外に出て、現代ガラス界を代表する作家・伊藤けんじ氏の下でも修行しました。嶺井さんから生まれるは、枠にとらわれず、さまざまな技術を組み合わせたもの。琉球ガラスと向き合う日々について話を聞きました。
オープンしたばかりの若手作家が営む工房

名護から本部町の街なかへと抜ける県道から逸れ、少し山間を進むと着く、伊豆味ガラス工房 うみのおと。赤瓦の古民家の横に工房を構え、琉球ガラスを作るのは、オーナーの嶺井海音さんです。
「ちょっと分かりづらい場所にあるので、探してまで来てくれるとうれしい。看板は出してるけど、途中まで民家がないので不安になると思うんですよね。この道であってるのかなって(笑)。でも、まっすぐ来てもらえれば……」。
実は、工房はコロナ禍の2020年に7月に設立したばかり。外出控えなど、世の中的に不安定な日々が続くなかでのオープンとなり、かなり不安もあったと話します。しかし、琉球ガラス職人の先輩からアドバイスをもらい前向きに。日々、奮闘しています。
「工房では、琉球ガラス作り体験のほか、販売もしています。工房を始めるとき、コロナ禍なのもあって、どこまで我慢して工房をスタートさせるかをすごく迷って。先輩に相談したら、『工房が軌道に乗るまでは時間がかかるから始めたほうがいいんじゃない?認知されるようになったほうがいいよ』ってアドバイスをくれて。工房をスタートさせても、お客さんが全然来ない不安なスタートにはなったけど、少しずつ来てくれるようになって。だから、お客さんが来てくれると、うれしくて、ついつい何かとサービスしちゃって。でも、先輩に『それじゃあ、ダメだよ』って言われちゃいました(笑)。でも、本当、たくさんある工房の中から選んで来てくれるとうれしいです」。
中学生のときの職場体験をきっかけにガラスの虜に

嶺井さんが、琉球ガラスの魅力に惹かれたのは、中学2年生のとき。琉球ガラス工房で、5日間、職場体験でお世話になったのがきっかけでした。その当時の写真をいまでも大切に持っていて、何枚か見せていただきました。職場体験がとても新鮮で、嶺井さんの未来に大きく影響することになります。
「琉球ガラスにいちばん最初に興味を持ったのは、中学2年生のときです。インターンシップで崎本部にある “ やんばるガラス工芸館 ” に行きました。僕たちの時代は、いまより長めの5日間、体験できたから、学べる内容も濃かった。ほとんど雑務だったけど、形が変わっていくガラスをぼーっと眺めるだけでも楽しくて。職場体験が終わったあとも通わせてもらって、雑務やったり、コップ作りの体験させてもらったり。コップとか作れるのが、新鮮で面白かったです。カーテン花瓶も作りました。ほとんど職人さんがやってくれたんですけどね(笑)。僕が作ったのは、ガラスを細長く伸ばしたり、取っ手を鉄の棒でくにゃくにゃってしたり。カーテン花瓶は伝統的な形で、昔からあるデザインなんです。当時15歳だから……、いまから16年前」。
中学卒業後は、沖縄県立浦添工業高校へ。琉球ガラスに特化したコースはなかったものの、工芸について学ぶ陶芸コースへ進学します。嶺井さんは、オリジナル性の高い琉球ガラスを作り続けたいと思う一方で、若い世代に技術を伝授したいという気持ちもあるようです。
「琉球ガラスについては学べなかったけど、陶芸について学ぶのも楽しかったです。それでも、ガラスがいいなぁとは思っていたけど(笑)。僕は中学生のときの職場体験がきっかけでこの世界にいるから、若い子たちに同じようなきっかけを作りたいなって思う。だから、高校に吹きガラスコースとか作れないかな?って。分かる範囲なら教えたいって思います。沖縄の琉球ガラス工房って、実は若い人が入るのって少数なんです。だいたい、脱サラして入ってくる人が多い。年を重ねてからのスタートだと、熟練するまでの時間がかかる。熟練後だと、自分がやりたいこと、表現したいこともあとになってくる。スタートが、早いに越したことはない。技術はすぐつかなくても、知識があれば、時間がかかってもきれいなものは作れるようになるから。ガラスを教える教育機関は、あった方がいいと思います」。
沖縄県内、そして県外でガラス職人としても修行

高校卒業後は、職場体験をきかっけに、中学校を卒業するまで通っていた、やんばるガラス工芸館へ就職。ほか、琉球ガラス工房でも、見習いとして職人としての経験を積みました。そして、さらに技術を磨くため神奈川県へ。現代ガラス界を代表する作家・伊藤けんじ氏が運営する、彩グラススタジオで修行を積みました。通常時は川崎市で講座を受け、夏になると、軽井沢にある工房に出向き、ガラス作り体験をするお客さんの対応をしたそうです。
「彩グラススタジオで学ぶのは、座学というより全部実技。一応、けんじさんが作った教科書はあるんですけどね。講座では、けんじさんがデモストレーションをして、終わったら、講座生でペアを組んで実践。実践しなきゃいけないけど、急に講座に参加することになるんですよ(入門の開始時期がそれぞれ異なるため)。だから、スタートがみんなバラバラで。入った直後から難易度の高いことをやってるので、何もできずに一ヵ月過ぎたり、アシスタントさえ務まらなかったり。でも、常に追い込まれた状況だから鍛えられるし、難しい技法を教えてくれるので、ガラス作りとしてのレベルがすごく高いです」。
ガラス職人を目指し、工房での見習いも、講座を通した技術の習得も両方経験した嶺井さん。独立するまでの経験が、『伊豆味ガラス工房 うみのおと』を作りだしています。
「見習いとして現場に入ると、毎日8時間は工房にいます。任せられた仕事があるので、自分がやりたいことが必ずしもできるわけではないけど、実際にガラスを竿に巻く経験とかができる。竿にガラスを巻いたりする感覚を掴むのは、簡単じゃありません。それを、講座の1時間で掴むのは難しい。でも、工房だと、各工程いろいろ考えながらできます。ガラスを竿に巻き付けるときも、ただ巻くだけではなく、どうやったらキレイに巻き付けられるか……とか。ガラスを触っていないときでも、先輩がやってるのを見たりして考えながらやっているので、ガラスへの理解が深まると思います。自分が表現したいものを、自分で作れるようになるには、実践も知識も、どちらも必要です。僕は、現場から入って、ある程度感覚を掴んでる状態で講座を受けたので、最初はうまくいかなくても、初めてガラスを触る人よりかは習得するのは早かったです。講座では、幅広いガラスの知識をつけることができました。(琉球ガラス以外のガラスを知れたことで、)ガラスに対しての考え方も変わりました」。
一人の作家として生み出す、琉球ガラスとは?

ガラスに関わり始めて10年ほど経った現在、工房設立までの準備期間を経て独立。個人工房で自身の作品を生み出すということは、これまでとは違う環境に置かれます。
「個人工房となると、一人の作家としてのデザインになります。作っているうちに、琉球ガラスの定義とは何か?ってことを、深く考えるようになってしまって……。先輩に相談したら、『沖縄で作ったものは、琉球ガラスなんじゃないの?』って言ってくれて。それから、定義やデザインとか気にせず、自分が作りたいものを作ろうと思いました。琉球ガラスって、国としての定義がまだ定まっていません。時代によって、どんどん変わっていくもの。琉球ガラスって一言で言っても、再生ガラスにこだわる人がいたりとさまざまなので、自分がやりたいことを幅広くやる、それでいいんじゃないかって思うようになりました」。
『枠を越えたときに、自分のセンスが見える』

工房横の棚には、さまざまな色合い、デザインの琉球ガラスが並びます。グラスや皿、なかには本部町伊豆味の名産である柑橘・みかんをモチーフにした文鎮などもあり、アイテムも多種多様です。
「よくお客さんが手にとってくれるのは、泡ドットグラスです。小さな玉の均等なヘコみを作るんですが、このヘコみも使い方次第で、泡になったり、デコボコした凹凸になったりするので、一つのデザインでも使い方を変えると雰囲気が変わってきます。ドット柄は、僕も好きなので、結構多様しています。7色あって、紫、青、水色、緑、黄緑、黄色、赤を用意しています」。
一つのカタチが出来上がるまでの工程を見ていると、素人としては未知の世界。でも、側で一連の工程を見ていると、職人が魅せる技に魅了され、琉球ガラスへの愛情が湧きます。雨細工のように柔らかくなったガラスを操り、思い描くものを作り上げる。そこには、苦労も喜びもあります。
「学んだことも、やりたいことも多すぎて、まだ、自分がやりたいことの方向性が定まっていません。右往左往してる。でも、いまはとにかく、やりたいと思うことは素直にやる。僕は、『枠を越えたときに、自分のセンスが見える』って、思っています。常に枠の外、枠の外を目指そうって。ガラスって、なかなか言うことを聞いてくれないので、自分がイメージしたものを作れたら、うれしいんです。ガラスを巻く瞬間から楽しくて、感触も楽しい。ガラスは熱を持ってるときと、常温のときとでは見え方が違います。四苦八苦しながら作って、冷やし窯に入れたあと、翌日に常温になって出すとき、前日とは違った雰囲気を見せるガラスを見るのもうれしいしです」。
嶺井さんを通して知る、ガラスの魅力

嶺井さんは琉球ガラスを生み出すだけではなく、ガラスそのものの魅力も伝えたいという想いを持っています。嶺井さんの指導のもと、琉球ガラス作り体験に参加してみるのも、新たな発見があって楽しいかと思います。
「琉球ガラスについて、もっと知ってほしいと思っています。琉球ガラス作り体験を通して工程を知ってもらい、一つのカタチが出来上がるまでの大変さとかを知ってほしいなって。だから、ほかの工房より体験に時間をかけていて、ある程度、お客さんにやってもらっています。補助がなくてもできる人なら、応援しかしないときもあります(笑)。そこで、ガラスの魅力を分かってもらえたり、楽しんでもらえると、僕もうれしいです」。
工房としてスタートしたばかりの、伊豆味ガラス工房 うみのおと。沖縄で学んだこと、伊藤けんじ氏の下で学んだこと、すべての知識を活かしながら、嶺井さんはオリジナル豊かな琉球ガラスを生み出します。ガラス職人として歩み始めた嶺井さんの作品は、まだ世に出始めたばかり。これから成熟していく嶺井さんの琉球ガラスを、コレクションとして加えてみませんか。日常に新たな風が吹くことかと思います。
<嶺井海音さんProfile>
沖縄県本部町出身。2019年10月、伊豆味ガラス工房 うみのおと設立。沖縄県内の琉球ガラス工房、やんばるガラス工芸館等で経験を積んだのち、県外で現代ガラス界を代表する作家・伊藤けんじの下、職人としての技を磨く。さまざまなガラス作りの技法を取り入れた、嶺井流の新たな琉球ガラスを生み出して行く。
Photo&text:三木愛海