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今夜は島酒紀文② ~与那国島 崎元酒造編~

泡盛酒造所

「今夜は島酒紀文」は筆者・島酒コンシェルジュの儀部頼人が、きままに泡盛の酒造所をめぐり、その酒造所の泡盛をテイスティングしていくシリーズです。

悪天候

荒涼とした大地、水平線のかなたまで広がる曇天。荒ぶる高波、、、北欧を思わせる書き出しのこの記事が、南国与那国島の記事であろうとは。 というのも、筆者が到着したその日は先述の様な気象であった。雑草の生えていない大地に与那国馬が群れをなし、折からの強風で海は大シケであった。事実、夕方初の便は欠航となり、疲労困憊した旅人が列をなして宿へ帰ってきたのだ。

私はというと雨風を凌ぎ、天馬のごときスピードを備える「ホワイトホース」に飛び乗り、一路次なる目的地の「合名会社 崎元酒造」へと向かって丸い手綱を握っていた。

やはり厳しい坂を駆け上り、まるでギニア高地の様なジオグラフィックのまさにその上に「崎元酒造」は蔵を構えていた。島の主要道路から見上げる断崖絶壁、その天空の頂に崎元酒造は在るのだ。

丘の上のサバニ(船)

敷地へとつながる細い道の入り口に「サバニ」と呼ばれる琉球の伝統的な小舟が酒造所の看板として横たわっている。「現役」の時には幾多の荒波と修羅場を潜り抜け、漁師に多くの海の恵みをもたらしたのだろう。ただ、今は隠居し、静かに来訪者を歓迎している。

建屋はやはり近代的なスチール製で、その大きさは島の建物の中では確実に上位に入るであろう。駐車場に愛馬を休ませ、筆者は蔵人を訪ねた。

地窯蒸留

工場に入ると「ゴォォォォッ!!!」フイゴ(鍛冶屋などで燃焼温度を上げるときに空気を送る装置)の音が聞こえてきた。そう言えば、崎元酒造は今なお「地窯蒸留」を行っている数少ない酒造所と聞いていた。これがその地窯蒸留器である。昔話に出てくる「ぶんぶくちゃがま」のそれを熊サイズにしたと言えば分かりやすいか。一般的な蒸留所は蒸気の熱を利用しているが、ここは直火炊きで蒸留するのだ。炊飯器でもそうだが、「直火炊き」というとなぜだか美味しくなるような気がする。

強力なモーター駆動のフイゴが燃料をジェットエンジンのごとく送り込んでいる。「ふぃゅーーーーぅ、、、」ふいにモーターの出力が下がり、ついには止まってしまった。

すると、一人の青年が、きつく幾重にも締められた蒸留器のボルトを外していく。「もしや!?」筆者は運が良い。蒸留の終わった窯のメンテナンスが始まったのだ。

ボルトを外し終わった窯の上部、「ネック」がまず取り外される。そしていよいよ「本体部分」が開けられるのだ。筆者はまるで失われたアークの蓋を開けるときのインディージョーンズの気持ちである。「中はどうなっているのだろう。ワクワクが止められないッッッ!」

クレーンで窯が持ち上げられ、まさにお宝の登場シーンさながらの大量の蒸気と共にその内部が全貌を現した。

中から現れたのは、今なお沸騰を続ける「もろみ」である。色はサトウキビの煮汁のような薄い灰緑色で、一目で粘性の高さを想像できる。窯の壁には、蒸留の際に暴れた「もろみ」がこびりついている。それを蔵人が丁寧にホースの水で液面に落としている。この作業はなかなか見ることはできないだろう。とても貴重な場面の目撃者となった。

吊るされたままになっているふたの部分。裏はどうなっているのだろう。特別に許可をもらい覗かせてもらった。 裏側にもびっしりもろみがついており、「なるほど、おこげの風味がするわけだ」と合点がいった。 この後キレイに水で流し、次の蒸留を行うのである。

さて、崎元酒造の商品であるが、実に多彩である。「花酒」はもちろんであるが、にごり酒の「海波」や、「おこげ」、島に自生する薬草を使った「長命草酒」等バリエーションに富んでいる。しかもオンラインショップまで開設している経営巧者だ。特に今人気なのが「海波」で、女性の購入者が多いのだという。にごりというビジュアルと甘い酒質が女性の人気を博しているようである。

では主力商品の「与那国43度」をテイスティングしてみよう。

まずはミネラル感の心地よいクリアな香り、そこに新酒特有の若い香りが混ざり込む。その後に干し草、麩菓子。口に含むと甘さの波が押し寄せ、引き際に香ばしい麦やおこげの香り。すっきりとしたボディなのに余韻はとても長く、優雅な時間を過ごせる。

次に「海波」をテイスティングしよう。もしも海波を手にする機会があれば、開栓する前にボトルの上部を見てほしい。エメラルド色の結晶が見えるはずである。不良品?いや、安心してほしい。これこそが「酒の花」と言われるうまみ成分の一部である「高級脂肪酸」である。通常の泡盛は白色であるが、海波はその名のごとく碧いのである。飲む前に数度、瓶をやさしくひっくり返して溶かしてあげよう。 

与那国泡盛ボトル 43度

さて、香りの基本は「与那国43度」と同じであるが、雲海に包まれた天空の城とでも言うべき、なにかヴェールに包まれている様な感覚である。口に含むと期待通りの甘さが心地よい。与那国43度よりもおこげ感はかなり少ないが、余韻として現れてくる。海波を囲み、女子会などをすると話が弾みそうである。

総括すると、崎元酒造の酒も、国泉泡盛と同様に甘さが際立つ仕様になっている。これは島の人が好む味わいということであり、そして島の人はこの酒の様に優しいのである。

ということで、次の紀文をご期待ください。

Photographs & Text by 儀部 頼人(Yorito Gibu)

続く