今夜は島酒紀文④ ~久米島 米島酒造編~
泡盛酒造所
「今夜は島酒紀文」は筆者・島酒コンシェルジュの儀部頼人が、きままに泡盛の酒造所をめぐり、その酒造所の泡盛をテイスティングしていくシリーズです。
サプライズの旅
毎年、妻の誕生日には「旅行」をプレゼントしている。なに、そんなに気取ったものでもない。理由はいくつかあるが、「妻には物欲がない」というのが最大の理由だろう。「じゃあモノじゃなかったら、何をプレゼントしたらいいんだい?」こう妻に聞くと、「美味しいものが食べたいわ♪そうね、この時期は美味しい食材が出回る時期でしょ?それを本場で食べてみたい♪」と答えたのが始まりだったような気がする。
妻と結婚して十数年。毎年必ず妻の誕生日には旅行をプレゼントしてきた。最初の子供をもうけた時には幼子を連れて海外へ行った記憶がよみがえる。あれから子供も増え、今となっては一家6人の大艦隊である。比例して思い出の数は増えていき、食卓では過去の旅行を思い出しては子供たちと談笑するのである。
「今年はどこへ連れて行ってあげよう・・・」
そう思案する筆者の脳裏に、以前妻が「私のルーツは久米島にあるみたい。一度でいいから久米島に行ってみたいわ」と話していたことを思い出した。さっそく航空券やら宿やらの予約を済ませ、妻に報告した。 もう今年は旅行もないと半ば諦めていた妻は小躍りして喜んだ。 「子供たちにも伝えておくね♪」そう言う妻に、筆者は人差し指を立てて口元へ持ってきた。「内緒にしておこう。朝、何事もないように空港に着いたら子供たちはさぞかし驚くぞ!」妻はいたずら好きの筆者の計画に賛同した。
飛行機の座席で一息
朝早く起こされた子供たちは眠い目をこすりながら車に乗り込んでいく。「ねぇ、どこに行くの?」次男坊が寝ぼけ眼で母親に尋ねる。すると母親は「さぁ、どこかしらね。」ととぼけて見せる。車は空港へ到着するも、「誰のお迎えにきたの?」と長男。夢にもこれから旅行に行くのだという発想はわかなかったのだろう。
「はい、お前たちのチケット」そう言って航空券をそう言って航空券を手渡すと今までの寝ぼけ眼が見開いて「マジで!?ヤッター!!!」と盛り上がる子供たち。つられて2歳の末っ子も「やったぁ!」と意味も分からずはしゃぎ始めた。サプライズ成功である。
いつの時代も子供たちをワクワクさせるのは飛行機である。眺めてよし、乗ってよし。子供たちの永遠のヒーロー、旅客機である。しかしながらこの久米島路線、25分しかフライト時間がないのである。公園のベンチで休憩する程度の時間しかフライトを楽しめないのだ。
しかしながら、子供の時間軸から考えれば離陸、巡航、着陸とテンポよくイベントが進むため飽きて暴れだす隙も無いので、親にとってみればすこぶるありがたいものである。

おばけ坂
今回の旅もレンタカーを借りることにしたが、システムが簡単である。空港の窓口で支払いを済ませた後にカギを渡される。後は空港の駐車場に停めてある車に乗るだけである。何に驚いたかと言えば、「空港の駐車場にレンタカーが停めてある」ということである。今まで旅してきたどの空港のレンタカー屋さんも、空港の敷地外に駐車スペースや営業店を持っているのが常である。これは移動時間をカットできて楽だ。そう感心した筆者である。
ここでようやく最初の目的地を決める。旅に必要以上の計画は無粋なのだ。
まずはグーグル先生に尋ねるのが21世紀を生きる人類の習わしである。すると近くにあった「おばけ坂」おすすめしてきた。さすが先生、「通」である。 説明を見るとこうだ。「下り坂に見えるのに坂にボールなどを置くと、逆に登っていく」というのだ。これは興味をそそられる。ナビを頼りに道を進んで行くと、ナビあるあるの「次の曲がり角の距離感がわからない」が炸裂である。いかにも古い民家の前でUターンし、ルートを修正。すると木々のトンネルに差し掛かり、そこを抜けると草原と案内板が現れた。いま通ってきたところが
おばけ坂だったのだ。さっそく車を停めて何か転がるものはないか車の中を物色するも、そう都合よく丸いものがあるわけがない。あるとすればコースターに入っている私の缶コーヒーだ。 まだ8割方残っている。「・・・」しばし躊躇するも、子供たちの期待の眼差しに耐えることができず一気にコーヒーを飲みほした。
「さあ、転がしてみろ!」空き缶となったそれを手渡すと一目散に坂へ走っていく子供たち。
「アッー!本当に上に転がってる!」「ヤバい!ヤバい!」 今どきの若い者はどんなシチュエーションでも「ヤバい」である。

米島酒造
さて、次は父の番である。前々から一度は行ってみたかった泡盛メーカー、米島酒造へ車を走らせる。場所は久米島の中心街に位置し「久米島交番」の隣にある。
事務所は真っ白な建物で、外壁に描かれたロゴがコントラストになり、センスを感じさせる。その隣に工場があり、こちらは歴史を感じる昔ながらの沖縄造りの建屋である。
工場の中はそれこそ期待通りの「島の造り酒屋」ある。筆者をはじめ、大半の見学者はこれを求めてやってくるのだ。工場の広さは地域の「公民館のホール」程度で、泡盛を造り出す為の全てがこの空間に凝縮されている。筆者としては「動線が悪いのでは?」という所があったため、失礼ながら責任者の方にこの疑問をぶつけてみた。



「いやぁ、そうなんですよね(笑) 設備を新しくした際に、この配置しかできなくて、、、」とのこと。何か職人のこだわりによる配置なのかと思っていたが、考えすぎであった。
そして工場見学の「目玉」が「蒸留器」である。異論は認める。しかしながら筆者の中では各酒造所の心臓部(物理的な意味で)が蒸留器であると考えているのだ。あの独特の金属のチェンバー(蒸留釜)。そしてそこから延びる様々なパイプ。そのどれもが美しく磨かれているのである。「はぁ…美しい…」 恍惚の表情を浮かべる中年男に怪訝な顔も見せず対応してくれる米島酒造のスタッフは懐が深い。
米島酒造の蒸留器は、他の大半のメーカーとは形を異にしており、撮影はNG。しかし知りたいのは人情。そこで筆者ができる限り表現してみたい。
色は金属特有の銀色。形は家庭の「圧力釜」を6倍程度に大きくし、その上部中央から太く短い「ネック」がすぐ隣にある冷却器へとほぼ水平に近い角度で曲がっている。ここから読み取れるのは重く、どっしりとした酒質の酒を目指しているのだろうと言うことだ。
ふと、窓から外に目をやると、そこにも蒸留器がある。ただし野ざらしである。「あれは?」と責任者に尋ねると、「以前使っていた蒸留器です」とのことである。大きさは現在のモノより二回りほど小さく、ネックも若干鋭角である。廃棄せずに保存してあると言うことは、
もしかしたら今後、在りし日の泡盛が再現される日が来るのかもしれない。そんなロマンを勝手に感じ、また悦に入る筆者であった。

テイスティング
酒造所見学の楽しみの一つが、作り手の話を聞きながらの試飲である。今回は米島酒造さんのご厚意で、酒造所のお庭でテイスティングさせていただくことできた。
今回は6種類をテイスティングしたいと思う。
美ら蛍30度

まずボトルのデザインが美しい。
心行くまで見とれて欲しい。
香りはすぐに甕貯蔵と分かる、甕由来の香りが立ち上がる。開いてくるとソルティーである。岩の間から染み出した岩清水の映像が頭に浮かぶ。
口に含むと甕の香りの後に甘みが押し寄せる。
そして下の奥に緑茶の香りも乗ってくる。
アフターはしっかり米島酒造の味わいである。骨格の安定感がわかる。
久米島30度

米島酒造の酒らしい素朴さと旨味を感じる「米島の心」とも言うべき味わいである。
香りはお米のやわらかい甘み、開くと香ばしさが現れる。口に含むと甘いお米の味、そこから元気よくアルコール感が現れる。ボディはミディアムで、しつこくない。余韻もほのかなお雅が心地よく続く。
水割りにしてよし、オンザロックで飲んでよし、初めて米島の酒を手に取るという方はぜひこの「久米島30度」から試してみて欲しい。
久米島(特別限定酒)25度
こちらは25度と非常に飲みやすい度数である。いかにも特別感のあるボトルは思わず手に取ってみたくなる。香りはとてもグラッシー。近いのは月桃の香り。口に含むと草原の様な香りが現れ意外とソルティー。かすかに黒糖。さすがに25度なのでボディは薄いが余韻が元気である。
飲みやすい度数でありながら、しっかりとした味わいはさすが米島酒造である。ぜひオンザロックで試したい酒である。
久米島43度
米島酒造の真骨頂。泡盛が本領を発揮する43度という度数はまさに「黄金律」である。初流から後留まで全域の味と香りが楽しめてボディも厚い。まずは泡盛らしい香りが迎えてくれる。
美ら波43度
まず香りは「おかず」の様な香ばしい香りを感じる。旨味を予感させる。口に含むとさらっとしているがすぐに香りと旨味が押し寄せ、最後に甘みが残る。時間を置いても力強さは失わない。
そして豊かなバニラ香りを楽しむことができる。泡盛本来の飲み方であるストレートで頂くことをお勧めするが、ロック、水割りにしても味がぼやけず素晴らしい時間を提供してくれるだろう。
久米島蔵出し原酒(2012)
その年の初蒸留をビン詰めした限定泡盛である。濾過が荒めに行われているため、うまみ成分たっぷり。冬季にはその高級脂肪酸が白く濁ることも。おこげの香ばしい香りと、蒸留の初めの段階に含まれる青リンゴの様な香りを感じられる。25度43度とあるが、ぜひ43度の方を甕や瓶で寝かせて頂いて、熟成していく様を楽しんでほしい。
ということで、次の紀文をご期待ください。
Photographs & Text by 儀部 頼人(Yorito Gibu)