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今夜は島酒紀文⑤ ~伊是名島 合資会社伊是名酒造所編~

泡盛酒造所

「今夜は島酒紀文」は筆者・島酒コンシェルジュの儀部頼人が、きままに泡盛の酒造所をめぐり、その酒造所の泡盛をテイスティングしていくシリーズです。

寝起きの直観 

いつもは8時頃起床する筆者であるが、その日は7時前に目が覚めた。昨晩は早い時間から七輪で焼き鳥を焼きながら、伊是名(いぜな)島(じま)の泡盛「常盤(ときわ)」を堪能し、いつもよりも早く寝床に入ったのだ。 

今日は予定がない。明日も、だ。まだ吐息からは昨日飲んだ「常盤」の香りが漂う。「そうだ!伊是名島に行ってみよう!」唐突に私の伊是名訪問は決定した。隣の伊平屋(いへや)島(じま)には何度か訪問したことがあった。しかしなぜか伊是名島への訪問の機会はなかった。これは何か起きそうな予感である。筆者は直感に従って後悔したことは一度もない。 

運天港 

沖縄本島を北上し、名護市を超えて国道を左に折れると、道沿いには美しい羽地(はねじ)内海(ないかい)が広がる。羽路内海と言えば名護市三蒸留所の一つ、龍泉酒造のローカルスタンダードボトル「羽路内海」である。北部地域にはめっぽう愛されており、食堂で羽路内海を主題とした「琉歌」が飾られているのを見たことがある。話は逸(そ)れたが、その羽路内海を眺めながら進んで行くと、やがて運天港(うんてんこう)が現れる。  

待合所にある土産物屋を覗くと、伊平屋・伊是名両方の泡盛が置いてある。思わず手を伸ばすが、まだ我慢の子である。「詰(つめ)口(ぐち)日(び)」だけ確認し棚に戻す。 

そしてフェリーに車を乗せるため車で待機。こういう場所には「不文律」が必ずあるものだ。東京であれば係員が細かく誘導の指示を出すだろう。しかしながらこれから行くところは離島の離島である。こういうローカルな場所は「ローカルルール」に従うが吉である。恐る恐る車を車列に並ばせる。もちろん様子を伺わないといけないので列の中ほどだ。例えるなら初めてお焼香をする時に似ている。 

誘導員、前の車の一挙手一投足に神経を集中し、「粗相」が無いように備えるのだ。 いよいよ筆者の番である。緊張も最高潮に達しながらフェリーの中へと車を進めていく。まるで自動車学校の卒業検定を受けている様に、誘導員の指示に従い縦列駐車していく。「ヘイッエーッ!!!(ハイOK)」という威勢の良い掛け声を聞くと、検定終了である。振り返ると車は寸分の狂いもなくピタッと列をなしていた。さすがは百戦錬磨の誘導員である。 

伊是名酒造 フェリー
「あいにくの曇天であった」

牧歌的な島内 

伊是名酒造にお邪魔させていただく時間はまだ先であったため、しばらく島内を探検してみることにした。伊是名島はお椀の様に丸い形をしており、動線がスムーズである。 

やがてセピア色の牧草地が見えてきた。ハーベストタイムが終わったのか、作物は無く、あぜ道も荒涼としている。道端に佇む赤いトラクターがまた何とも良い味を出している。遠くの木には白い鳥群が羽を休めている。ここは本当にのんびりとした時間が流れている。 

伊是名酒造 田んぼ
伊是名酒造 稲刈り

再び、あてもなく車を走らせていくと、両脇を低木に囲まれた一本道を走ることができた。緑の木々、開けた空、道の先には青い海。この景色は贅沢の極みである。

そして小高い場所にその贅沢を独り占めできる場所を見つけてしまった!これはもはや空中ブランコである。いい年をした中年が少年に戻る瞬間である。

伊是名酒造 小高い場所でブランコ

やがて海岸線へ着いた。美しい砂浜を歩いていると、この違和感は何だろう、、、すぐになぞは解けた。岩場である。実に奇妙に侵食された岩礁の群れが目の前に広がっているのである。どの様にしてこの様な形に形成されたのだろう、、、想像は尽きることはない。 

伊是名酒造 小高い場所からの景色

そして大自然はすごい。この様な不毛で、波の浸食も激しい岩にも植物は根を広げるのである。そこから何か人生訓の様なものを学んだ気がした。 

伊是名酒造 海岸
伊是名酒造 奇妙な岩礁
伊是名酒造 岩礁の群れ
伊是名酒造 岩礁に咲く花

伊是名酒造 

そろそろ酒造所に向かう時間である。伊是名酒造は伊是名集落の中心にあり、周辺は古き良き沖縄の風情を感じさせる。狭い路地、琉球石灰岩を積み上げた石垣。そして瓦屋根。 

そんなモノクロームの景色の中、パァッとピンクの花が視界に飛び込んできた。花びらの一つ一つがまるで天使たちが遊んでいる様に見える。これはトックリキワタ。沖縄では街路樹によく使われる木であるが、このトックリキワタは見事である。名前の通り、4月頃には綿がたわわに実り、これまた風情がある。

伊是名酒造 トックリキワタ
伊是名酒造 トックリキワタの花

まず目に飛び込んでくるのは、敷地の駐車場に設置されたミニバンほどある6基のステンレスタンク。この中に伊是名酒造で造られたしずくが熟成の時を刻み、瓶詰の時を待っているのだ。事務所を訪ねると代表の仲田(なかだ)輝(てる)仁(ひと)氏がにこやかに迎えてくれた。

伊是名酒造 代表 仲田輝仁氏

そして現場で泡盛を造っている新進気鋭の醸造家、仲田(なかだ)詢弥(じゅんや)さんも一緒に工場を案内していただいた。

伊是名酒造 醸造家 仲田詢弥氏

詢弥さんは高知県の酒蔵で修業し、最近伊是名島へ帰ってきたとのこと。まさに今、泡盛業界は代替えの時期である。 

さっそく工場を見学させていただく。ピカピカのステンレスタンクと木の柱が何ともアンビバレントな感情を引き起こす。このハイブリット感よ。麹の張り付いた木の柱が「酒造所」という雰囲気を醸し出してくれる。

伊是名酒造 工場内

蒸留器は横型。ネックは中太で短く、骨太の酒質をアイデンティティーとしていることがわかる。 

伊是名酒造 蒸留器

伊是名酒造 電柱 SDGs

「これを見てください。」詢弥さんさが指さした先にはなんの変哲もない木の柱が。「よ~く見てみてください(笑)」促された柱を注視してみると何かの表示が。「あっ、これ電柱ですね!」 聞くと、木製の電柱がコンクリートや金属製に順次置き換えられおり、廃棄される木製の電柱を頂いて再利用したのだとか。まさにSDG(エスディージーズ)sである。

三角棚(麹(こうじ)棚(だな))も見せてもらうことができた。ここは蒸したお米に麹菌を巻いて、でんぷん質を糖分に変える工程を行う場所である。地味な場所ではあるが意外と酒造所の社外秘が隠されているのである。現に三角棚を見せない酒造所ある。伊是名酒造所の三角棚は、とても清潔感に溢れたステンレス製である。水分の吸湿を狙って木製とする酒造所もある。 

またしても、そのステンレスの棚とアンビバレントな対比をするのが、麹をかき混ぜる「櫂(かい)」である。木製の櫂は長年の使用により丸みを帯びた何とも優しい佇(たたず)まいをしている。

伊是名酒造 木製の櫂

もう一つの櫂は平らで長年の使用で機能美すら感じる形に研ぎ澄まされている。「これ、先代の頃から使っていて、もう何十年経ってるか分かんないよ(笑)」笑顔を浮かべながら教えてくれた。きっとその櫂の中に先代の働いている姿を思い出したのだろう。

伊是名酒造 先代からの櫂

見学を終え、代表と名残惜しく立ち話をしていると、「儀部さん、この後お暇でしたらどうです?」指でおちょこのマークを作りながら口元でクイクイと動かしている。言うまでもなく「懇親会」のお誘いである。筆者が伊是名島を訪れた際は、やれ「まん防」だの「緊急事態何とか」だのとは無縁の時期で、喜んで酒席を共にすることとなった。そして酒造所見学の本当の「ホンバン」はここからである。 

島で人気の居酒屋さんが集合場所として指定されたのでgoogleマップで調べてみると、私の宿の向かいであった。これで帰りは気にしないで飲める!(後でこの目論見は外れることになる)。暖簾(のれん)をくぐり、中に入ると外からは想像も出来なかった広い空間が現れた。「ここは広いから、島のあらゆる集まりに使われるんですよ!」と輝仁氏。納得である。そして席にはお初にお目にかかる方が数人先に座っていた。 

「ご紹介しますよ!」飲み仲間を連れてきてくれたのだ。地元の団体職員さんからミュージシャンの方まで、酒席は大勢の方が楽しい。 

「さぁ、儀部さん、何から行きますか!?」 カウンターの棚には伊是名酒造のお酒がずらりと並んでいる。 テイスティングをする際には度数の低い方から行くのがセオリーである。「じゃあ20度のお酒で」そう注文すると出てきたのが「いぜな島20度」である。正直この瞬間までは「しぶしぶ飲んでおくか」という気持であった。筆者は「40度以下は酒じゃねぇ!」を地で行く高度数(こうどすう)信奉者(しんぽうしゃ)であった。しかしである、次の瞬間、そのくだらないアイデンティティーは朝露の様に儚(はかな)いものであることを思い知る。「!!!」ひとくち「いぜな島20度」を口に含んだ瞬間衝撃が走った「ウマい!!!」 こんな事って起こりえるのだろうか。20度である。原酒になみなみと加水した20度である。薄々にのばされた20度である。「そんなはずはない」と何度も何度も喉を通すが、一向に化けの皮は剥がれない。降参した筆者は杜氏の詢弥氏に正解を聞くことにした。

「これ、普通に作った原酒を加水しただけですか?」と。はじめは「そうですよ~」なんて返答であったが、だんだん場の皆の酔いも回りだしたころで再度質問をした。「ただの加水なわけがない、絶対造りは違うでしょ」と。すると「原酒を加水したというのに偽りはないが、実は『20度の酒を造るため』のもろみ造りをした」とのこと。やはりである。単なる加水でこの旨味が残るわけがない。20度の時にうまさのピークが来るように狙って作ったのである。こんな話を聞ける。これが「ホンバン」の真骨頂である。 

正直、2020年の「マイベスト泡盛」を選べと言われたら間違いなくこの「いぜな島20度」である。そして杜氏がポツリと「いやぁ、気合を入れて作り込み過ぎちゃって、うまい酒はできたんだけど、でも島の人からは「いつものと味が違う!」と言われてしまって、また造りを元に戻すかもしれません」と。これは一大事である。読者の皆様も2020年5月~のボトルをぜひ見つけてキープしておいて欲しい。まだしばらくは在庫があるとの事であるが、いつ枯渇(こかつ)するかわからない。一期一会の酒の楽しみであるが、やはり別れがたい友が居るのも事実である。「いぜな島25度」も試してみたが。この様な酒質ではなかった。 

そろそろ宴も最高潮である。いま伊是名島が現場だという絵にかいたような酔っ払いの「ナオキ」さんがこちらのテーブルに乱入してきた。最近この居酒屋でちょっとしたマスコットキャラだとのこと。作業服にタオルのハチマキ。深いしわにゴツイ職人の手。まさにベテランの型枠工である。 ふと誰かが「ナオキさんおいくつなんですか?」と質問した。「え~?45歳になるっ!」と。一同絶叫!「うそぉぉぉぉ!!! ナオキ年下だったの!?」その場の全員がずっと先輩だと思っていたナオキさんはかなり年下だったのだ(笑) さっきまで先輩扱いされていたナオキさんは一気にいじられキャラに格下げ。盛り上がりも最高潮に達し本当に良い酒宴となった。

伊是名酒造 酒宴

名残惜しく、千鳥(ちどり)足(あし)で向かいの宿に帰ろうとしたところ、輝仁氏から、「もう一軒行きましょう!」とお声がかかった。願ったり叶ったりである。先ほど席を一緒にしていたミュージシャンの方がミュージックバーを経営しているとのことで、特別に開けてもらえることとなったのだ。そのBARまで居酒屋の女将(おかみ)の車で送ってもらい、中に入るとまるでライヴハウスである。そこで贅沢にも生伴奏でカラオケ大会が始まったのだ。こういう出会い。こういうハプニングは本当に人生を豊かにしてくれるものだ。 

帰り道、街並みを見ながら帰りたくなったため、送迎をお断りしたが、これがいけなかった。街灯が一つもないのである。しかも深夜。家の明かりも点いていない。携帯のLEDの明かりだけを頼りに宿へと急ぐ筆者から酔い覚めたのは言うまでもない。 

テイスティング 

今回はスタンダードな「常盤30度」、フラッグシップの「金丸十年43度」、古酒造り用の「常盤荒(あら)濾過(ろか)44度」、そして件の「いぜな島20度」をテイスティングしてみたいと思う。 

常盤30度

常磐ボトル

まず香り、注いだ直後にはいかにも泡盛らしい香りであるが、開いてくると柔らかく、わた菓子の様な甘い香りに変化する。

口に含むと甘くやわらかい。いやらしさの無いのど越しも良い泡盛である。まるでシルクのヴェールが舌の上で滑っている様である。 

常盤・荒濾過44度

名前こそ同じ「常盤」であるが、香りの方向性はやや違う。透明感のある香水の様な香り。「アクア〇〇」と表現される系統である。しかしながら、開いてくるとぽたぽた焼きの様な香ばしい香りが現れる。その中にキノコ様の香り、薄い醤油の様な香りが感じられる。口に含むと、なるほど「荒濾過」である。高級(こうきゅう)脂肪(しぼう)酸(さん)が「濾過(ろか)禍(か)」をくぐり抜け、しっかりと残っていることがわかる。 

金丸 十年43度

金丸十年ボトル

これが伊是名酒造の最高峰に君臨する銘柄である。複雑の香りが入り交じる。常盤の香りとはかなり方向性の違う重厚な香りである。

黒糖、濃い口醤油、メイプルシロップ、うっすら墨汁、パフュームのニュアンスもある。 

いぜな島20度

伊是名島 ボトル画像

やわらかな口当たりの直後、怒涛(どとう)のごとき力強い酒が口腔(こうくう)を駆け巡る。ザラメの様な甘さが広がり、喉の奥からは白糖となって返ってくる。因みに「金丸」は第二尚氏、尚円王の別名である。まさに王者のごとき酒である。 

最近私が信者の様に心酔している「いぜな島20度」。すっかりこの綿菓子の様な香りと味わいの虜(とりこ)になってしまった。薄目のカルピスと形容するのは言い過ぎだろうか、、、 

一般的な20度の泡盛は、一言で言うと「水割り」である。単に薄まった泡盛という感じで、43度の泡盛を買った方が棚のスペースが省けるというものである。しかしながら本文で書いたように、このいぜな島20度はちゃんとうまさがノッテいるのである。

ぜひともオンザロックで楽しんでほしい。あなたも信者になるだろう。 

Photographs & Text by 儀部 頼人(Yorito Gibu)