北谷長老酒造 <前編> 工場長・知念秀人氏ガイド。北谷町唯一の酒造所
酒造所沖縄本島中部、西海岸に位置する北谷町(ちゃたんちょう)。ダイビングやサーフィンなどマリンスポーツが楽しめる宮城海岸、ショッピングやグルメが楽しめる美浜アメリカンビレッジなど、ちょっぴりアメリカの雰囲気を感じられる海と街が溶け合う沖縄を代表するリゾートタウンです。
北谷長老(ちゃたんちょうろう)酒造は、首里赤田町に「玉那覇酒造」として1848年創業。
その後1910年に北谷町桑江に移転。しかし酒造所は米軍基地用地として収容され、1940年代に現在の北谷町吉原に移転。
2006年、代表銘柄「北谷長老」を社名に取り入れ「北谷長老酒造」に名称変更。2012年に法人化し現在に至ります。
那覇から北谷へ。戦禍をくぐり抜け、サキヌマー(酒飲み)たちの喉を潤し、こころを満たしてきた北谷長老酒造。
工場長・知念秀人(ちねん・ひでと)さんに北谷町唯一の酒造所、北谷長老酒造工場をご案内いただきました。
<前編>です。
<取材日> 2021年11月17日
北谷長老酒造では、冬場1~2月から泡盛の製造がはじまり、遅くとも9~10月に製造を終えます。
泡盛の製造期間は、タンクの空き具合や状況によるそう。取材に訪れた際は製造お休み期間中でした。
北谷長老酒造のこだわりと特徴
■ 製法は長年変えておらず、伝統に則った製法を守り、ブレない酒造りを続けています。
■ 黒麹菌が元気でいられるようスピード感をもって作業を行い、温度管理を徹底しています。
■ 古酒泡盛1本1本、ひとの手によって完成させ出荷しています。
酒瓶の肩ラベルとキャップシールは昔から1本1本、ひとの手で貼っており、箱詰めも手作業です。
泡盛の製造工程 - 北谷長老酒造
11月中旬の夕刻に訪れた北谷長老酒造工場。丘陵の住宅街に建つ小さな工場は思いのほか周囲に溶け込んでいました。製造期間外の工場内部は息を潜めるようにひっそりと静まり返り、タンクや柱、機械のひとつひとつが稼働中より存在感を増しているように感じます。
「お客様の安全のために工場見学はご遠慮いただいているんですよ。狭く少し複雑なつくりになっていますから、気をつけてください」と、工場長・知念秀人(ちねん・ひでと)さんの先導で慎重に歩みを進めました。
北谷長老酒造の工場は、2階にドラム(回転式ドラム自動蒸し器)と三角棚(製麹機)、1階に巨大な醪タンク、中2階に蒸留機、地下タンク(検定タンク)といった造りで、ちょっとしたゲームのダンジョンのようです。
1.洗米、浸漬、蒸きょう(じょうきょう)
まずご案内いただいたのは2階。
ドラム(回転式ドラム自動蒸し器)と三角棚(製麹機)がひとつずつ向かい合わせで設置されていました。
泡盛づくり1日目は、原料となる米をドラムで洗浄、浸漬、蒸きょうです。
「蒸米を送風で43℃くらいまで冷ましてから種麹である黒麹を投入し、1時間ほどドラムを回して混ぜ合わせ、そのまま18時間ほど置きます」と知念さん。
この際に投入される種麹は、同じ北谷町内にある石川種麹店さんの黒麹だそう。
翌朝、ふたりがかりで米専用運搬容器で、ドラムの向かいにある三角棚に蒸米を運搬します。
水分を含んだ蒸米はずっしりと重く、かなりの力作業だということは想像に難くありません。
「ドラムから三角棚に蒸米を移す際はふたりで運搬しますが、冬場など米が冷えると黒麹菌の元気がなくなってしまいますので、スピード感をもって作業を行っています。
運搬作業は汗だくになりますよ。冬場でもシャツは背中まで汗でびっしょりです」
と知念さんは苦笑いされました。
2.製麹(せいきく/せいぎく)
泡盛づくり2日目は、三角棚で一晩寝かせ、蒸米に黒麹菌を繁殖させて、米麹をつくります(製麹)。
「退社する1時間ほど前に三角棚に移動させた蒸米をならし、約22時間寝かせます。
三角棚はオート制御です。夏は32~33℃、冬場はもう少し高めに内部を保ちます」。
夏と冬、気候に応じて温度管理にも気を配られます。
3.仕込(しこみ)
泡盛づくり3日目は、仕込です。
ふたりがかりで三角棚から大きな漏斗へ米麹を運び、2階から1階の醪(もろみ)タンクへ米麹を流し込みます。
醪タンクは仕込タンクとも呼ばれ、約2,200リットルのタンクが10本。
設置しているのは1階ですが、背の高いタンクの上方へ上がれるように足場が組まれています。
「タンクにはあらかじめ硬水を張っておき、そこへ三角棚の米麹、種もろみ、酵母(泡盛101)を加えて撹拌します。もろみの活性化を助けるために、種もろみを追加する作業は代々受け継いでいます」。
醪タンクの高さは約3メートル。
「深いタンクにある醪は重くて人の手ではかき混ぜられませんから、1日1回エアーでかき混ぜ、2週間ほど寝かせます」と知念さん。
蒸米の移動運搬、米麹の移動運搬、すべて人力で行っていたところに、「エアーでかき混ぜます」という言葉が登場して、なんだか少しほっとしました。
4.蒸留
2週間ほど寝かせアルコール発酵した醪(もろみ)は、中2階の蒸留機へモーターで上げて、午前・午後と2回に分けて蒸留します。
蒸留された原酒は地下タンクへ送られます。
アルコール度数80度~30度くらいを採っており、地下タンクに行く原酒のアルコール度数は平均で53度くらいになっているそうです。
5.アルコール度数調整・貯蔵
「地下タンクの原酒を貯蔵用ステンレスタンクに移し、3~4時間かけて軟水を加えて、アルコール度数を44度まで落としてから寝かします」。
泡盛製造工程のご説明を一通り伺ったところで、「もっとも大変だと思われることは何でしょうか?」と知念さんに伺いました。
「加水ですね。 アルコール度数を調整するための作業は、計算機で計算して、手作業で加水していくのですが、加水するときはいつも緊張します」。
ご縁あって19歳から北谷長老酒造に務め、現在38歳。泡盛造りに従事すること約20年。
静まり返った工場のなかでも、知念さんの会話の端々から、知念さんは工場長として責任を持って北谷長老酒造の泡盛を世に送り出しているのだ、と感じました。
<後編>へ続きます。
後編では、北谷長老酒造工場長・知念秀人さんオススメ銘柄のご紹介と、工場長の想いをお届けいたします。
<しーぶん>
泡盛酒造所47社中38社が使用している種麹。その種麹を提供するのは、北谷長老酒造工場と同じ北谷町内にある「石川種麹店」さん。1956年創業の沖縄唯一の黒麹会社です。
北谷町唯一の酒造所でつくられる泡盛「北谷長老」、「石川種麹店黒麹菌」はともに、北谷ブランド「THE CHATAN」推奨認定されています
北谷長老酒造工場の泡盛についてはこちら。
北谷長老酒造工場株式会社
https://chatan-chourou.co.jp/
〒904-0105 沖縄県中頭郡北谷町字吉原63番地
TEL:098-936-1239
<酒造所見学> 現在見学はご遠慮いただいております。
Photographs & Text by 安積美加(Mika Asaka)