泡盛と酒器:琉球王朝時代から受け継がれた琉球錫器(前編)
お酒と文化この漢字、読めますか?
「錫」
私たちの日常生活ではあまり馴染みのないモノなので読めない方も多いと思いますが、錫は「スズ」。金、銀に次ぐ高価な金属とも言われており、純度の高い錫は柔らかく、手の力でも曲げることができます。
メリットの多い錫の特徴
その他にも
・酸化しにくく錆びにくい
・融点は約230度と低く、加工しやすい
・有害物質が水中に溶け出すことのない安心な素材
・不純物を吸収する性質があり、水を浄化してくれる
・抗菌作用に優れている
など、さまざまな特徴があります。他の金属と比べてみると分かるのですが、輝きは派手すぎず控えめ。どこか温かみのある艶と上品な光を放ち、優しい手触りをしています。
私たち現代人は錫製品を手にする機会はあまりないかもしれませんが、かつて沖縄(琉球王朝時代)には錫工芸の文化があり、300年以上続いたそうです。今回は、琉球王府の時代に錫がどのように使われていたのか、金細工職人の上原俊展さんにお話を聞かせていただきました。
琉球王朝時代に生産されていた錫製品
琉球王朝時代には「シルカニゼーク」と呼ばれる錫職人が祭祀道具を中心に生産していましたが、王府時代末期には角瓶(酒器)も作られるように。
こちらは明治期の沖縄で行楽(今でいうピクニック)時に使われていた提重(さげじゅう)です。
提重は屋外に出かける際、食事とお酒を持ち運ぶために作られたもので、中には重箱や取り皿、お箸、錫製の酒器などが納められていました。
角瓶の蓋を開けると、中には小さな盃(さかずき)が。錫製の酒器と古酒(泡盛)はとても相性が良く、お酒を盃に注ぐと芳醇で甘い香りがふわっと広がります。飲み口は薄くて繊細。味わう際、お酒の香りと旨みがダイレクトに伝わりやすいのだそうです。
漆塗りの湯庫(タークー)は、手提げ箱の中に錫製の湯桶が納められています。保温性が高く現代の魔法瓶のような役割をする道具で、外出時お湯やお茶などの温かい飲み物を持ち運ぶ際に使われていたそうです。
こちらの盃は、格式の高い儀式で用いられた耳盃。御神酒を供えるための盃だったそうで、装飾は一見松に見えますが“龍の意匠が変化したもの”とされているのだとか。
上原さんは琉球の祭祀の場で使われた錫製の酒瓶、御玉貫(ウタマスキ)の復元製作にも携わりました。
「当時の職人の技術と美意識の高さには感服しています。琉球の工芸は、精密に仕上げられた京都の工芸に比べると“テーゲー(適当)”や“技術不足”などと言われてしまうことがあるのですが、私はそうは思いません。何年も金細工に関わっているから分かるのですが“あえて作り込み過ぎないように製作した”のだと確信しています」と上原さん。
王府消滅など理由から錫文化は100年ほど前に途絶えてしまい、その研究も近年まではほぼ手付かずだったのだとか。上原さんはそんな琉球錫器の再現だけでなく、現代人の生活にも溶け込む新しい錫のカタチを提案します。
続く
『金細工まつ』特集の後編はコチラ
金細工まつ(上原 俊展)
https://www.ryukyu-matsu.com
Photo&text:舘幸子